異呆人

毒にも薬にもならない呟き

オシャレのきっかけ

同僚が最近ゾゾタウンを使ったという話をしていた。

何やら必要に迫られて買う洋服があり、それで利用してみたそうである。

思ったより安く目当てのものが買えたらしく、意外と良かったという話だった。

なんなら噂のゾゾスーツとかいう、着るだけで採寸してくれるものを試してみようかと言っていた。

私はファッションには興味がないが、あれは面白そうだなと思っていたので、ゾゾタウンに少し興味を持った。

安い買い物もできるなら、なお良い。

 

そんな話の流れでサイトを開いてみた。

開いた瞬間、たくさんの衣服が目に飛び込んでくる。

サイトのインターフェイスも可愛らしい。

試しにポロシャツで検索してみたら、様々な種類のそれらが大量に出てくる。

何かよくわからないけど、すごい。

そんな風に思った。

でも、見てても欲しいとは思わなかった。

というか、よく考えたら、今、服を欲しいと思っていない。

欲しいものがない。

満腹の状態でレストランのメニューを眺めるようなものである。

当たり前の話。

 

私は同僚に「なんかすごいですけど、いっぱい出てきすぎて、よくわからないですね」という、よくわからない感想を述べた。

なんともバカっぽい。

すると同僚から「朱天さんって、いつも服を買うとき、どうしてるんですか?」と聞かれた。

どうしてるって、ユニクロあたりに出かけて適当に選んでいる。

こんな服がいいという希望はないので、並んでいるものから消去法的に選ぶ。

最近は誕生日などに妻がプレゼントしてくれるので、それだけで間に合っている。

つまり自分ではほとんど買っていない。

もともと年に1,2回しか買わないし、なんなら10年以上前に買った服をいまだに着ていたりする。

 

そんな話をすると、同僚は「私も今はそんな感じですよ。こういうのって、着たい服がはっきりしてる人が使うものですよね」と言った。

それを聞いてふと疑問に思ったのだが、「着たい服」というのはどうやってわかるのだろう。

私の場合、ウィンドウショッピングでいいなと思うような服は、皆同じようなものである。

細身の体型に合うフィット感の高い服が好きなのである。

色は基本的にモノトーン。

だから同じような服ばかりクローゼットに並ぶ。

というか、同じような服をすでに持っているので買おうと思わない。

 

そんな話をすると同僚は「私は若いときはファッション雑誌とか見て、『こんな服がほしい!』と思って探したりしましたね」と教えてくれた。

ファッション雑誌!

なるほど、ファッション雑誌というのはそんな風に使うものなのかと、齢三十を過ぎて初めて知った。

私はファッション雑誌を見たことがない。

たまに美容室で席に着いたあと、美容師さんが目の前に並べてくれるのだが、見てもどうとも思わないので持て余してしまう。

なんでも、大学生とかは、そういう雑誌を見て「こんな格好をしたい!」と思ったりするらしい。

そういえば私は大学生の頃、どんな服装をしていたのか。

部活のジャージに下駄で授業に出ていた。

それ以外ならスポーツ用のTシャツに短パンである。

ファッション性の欠片もない。

一般的な大学生とは程遠い。

 

「そういうのって、誰が教えてくれるものなんですかね。ファッション雑誌を見るとか、そんな発想、普通に生きてたら持たないんじゃないですか?」

私は思わず、わけのわからないことを呟いていた。

いや、別にオシャレな大学生になりたかったとか、そういうわけではない。

でも、「オシャレはするもの」という考え方を、多くの人はどこで仕入れるのか純粋に疑問に思った。

同僚はそんな私の妄言にも真摯に回答してくれた。

「誰かに教えてもらうわけじゃなくて、自発的に見るようになるんじゃないですかね。やっぱりかっこ良く見られたいんじゃないですか?そうですね、ストレートに言えば、モテたいと思うからオシャレをする。オシャレの仕方がわからないからファッション雑誌を見る。そんな感じだと思いますよ。朱天さんの場合、そもそもモテたいと思ってないでしょ。だから必要なかったんだと思いますよ」

そこまで言われて納得した。

大袈裟に言えば、目から鱗が落ちる気分だった。

う~ん、なるほど。

 

私の周りには一風変わった人間が多いのだが、誤解を恐れずに言えば、同僚は私の周囲の人間の中では一般的な方である。

たまにそういう人たちと話していると、いかに自分の考え方が根っこの方からズレているか、ということを思い知らされる。

私はファッション雑誌を見る人というのは、服が好きな人が見るものだと思っていた。

私がゲームを好きなように、世の中には服を好きな人がいて、それらを眺めているだけで幸せな人がいるのだと思っていた。

いや、そういう人もいるのかもしれないが、ファッション雑誌というのはいわばオシャレの入り口みたいなものなんだなと理解した。

私はたぶんゾゾタウンは使わないだろうが、ゾゾタウンの話題を介して良い勉強ができた。

歳を重ねても、まだまだ知らないことはたくさんあるものである。