異呆人

ノンフェータルなペシミズム

ちはやぶらなかった話

今週のお題「表彰状」

 

表彰されたことはままある。

そんな大したものではないが。

胸を張れるほどの特技はない。

私の能力の特性は「広く少し深く」である。

大抵のことは人より上手にできる。

ただし突き抜けない。

器用貧乏と呼ばれるタイプである。

だから「学校で1,2番」くらいになることはあっても、世間的に自慢できたり名声を得られるような「表彰」はされたことがない。

 

さておき、いくつかある「表彰」の中で、このお題を見たときに思い出したのは、中学校での百人一首大会のことである。

これまでその学校では百人一首大会などしたことがなかったはずなのに、なぜか私が中学2年のときに催されることになった。

まぁ、教師の思い付きだろう。

私は百人一首を半分以上は覚えていた。

小学生の時に「どこまで覚えられるか」といった取り組みを、担任にさせられていたからである。

「させられた」と言っても、まあまあ楽しんでいたとは思う。

私は記憶力が良かった。

知識が蓄積されていくことを実感するのは楽しい。

 

そんな百人一首大会は、まずリハーサルが行われることになった。

テープで読み上げられる歌。

上の句のあと、しばらくの間があって下の句。

体育館の隅々まで聞こえるかといった、音響の確認もあったかもしれない。

6〜8人くらいで円座になり、真ん中に札を並べる形式だった。

練習だったので60首くらいまでだったが、私は札を取りまくった。

皆、下の句が始まってから札を探し始める。

歌を覚えないから、カルタと同じ要領である。

私は上の句の段階で探し始めるので、それでは負けようがない。

50枚以上取る1人勝ちだった。

 

リハーサルが終わった後、教師が「10枚以上取った人!」と、挙手を求めた。

ぞろぞろ数名が手を上げる。

私もならって手を挙げる。

そして「20枚以上!30枚以上!」と言われるたびに、ぞろぞろと手を下ろしていく。

「まさか、50枚以上…」と言われた段階で手を挙げていたのは、私だけだった。

なんだか恥ずかしかった。

大したことはしていない。

どこかで手を下ろしておけば良かった。

まぁ、一緒に円座になっていた人たちにはすぐにバレるので無理だったが。

 

なぜ恥ずかしいと思ったのだろうか。

こんなゲームに本気になっていると思われるのが嫌だったのか。

得意でない人を嬲っているように思われるのが嫌だったのか。

単に注目を集めるのが嫌だったのか。

そのとき何をどう感じたか思い出せないが、賞賛されたはずなのに嫌だった感覚だけは覚えている。

 

しかし本番は2位だった。

手を抜いた。

他の人が上の句の段階で探し始めたら、見つけていても取らずに探しているフリをした。

せっかく覚えている数少ない札を、私みたいな奴が片っ端から取っていくのは面白くないだろう。

私だって、そんな一方的なゲームは面白くない。

まぁ、そんな風に手を抜いても2番だったのだから、みんなあまり本気で取り組んではいなかったのだろう。

それで表彰された。

悔しくはなかった。

そもそも勝ちたいと思ってなかった。

負けず嫌いな方だと思うのだが、あれだけは特別で不思議な思い出である。

ちなみに3人1組で取り組む団体様は優勝した。

 

ちょうど冬季五輪が催されているが、勝つことは難しいことだと思う。

でもそれと同じくらい、勝ちたいと思い続けることも難しいことだと思う。

「精一杯やりました、悔いはないです」、「結果は意識せず、ベストを尽くせればそれでいいです」というのが悪いことではないが、それは勝ち負けというプレッシャーから逃げるための方便だとも思う。

逆に一流のアスリートをしてそう言わしめるほど、勝負を意識し続けることは大変だということだろう。

 

もしかしたら、百人一首のときの嫌な感覚には、「あいつは勝って当たり前」と思われるのが嫌だったというのも、ほんの僅かばかりはあったかもしれない。

そんな奴と試合うのが嫌だと思われるのが、嫌だったのかもしれない。

だから手を抜いて、「なんだ、私でも取れるのがあるじゃないか」、「それほどでもないじゃないか」と思ってもらいたかったのかもしれない。

いずれにせよ、オリンピックを持ち出すような話ではなかったか。

 

でもそのプレッシャーの中、金メダルを取った羽生選手や小平選手は本当に素晴らしいと思う。

もちろん今一歩及ばず負けた選手も素晴らしいのだが、その今一歩を詰め切れるかどうかが、スポーツの面白さであり難しさでもあるのである。

彼ら彼女らは、その表彰台の一番上から、さらに先の未来をどう見ているのだろう。

所詮大したことでは表彰されてこなかった常人には、推し量る術もないことではある。