異呆人

毒にも薬にもならない呟き

私の知らない私

ある朝、目が覚めると毛布1枚を被って寝ていた。

我が家では、私と妻は1つのベッド、1枚の布団で眠っている。

個人的には布団くらいは1人1枚の方がいいのだが、妻がダブルサイズの布団1枚で眠ることを希望したし、それを拒否することにより生ずる何某かを考えた場合、私の希望など取るに足りないと考えたからである。

だから普段は毛布は使わない。

私以上に寒がりの妻が、時折使う程度である。

その日も眠るときはベッドの上に毛布はなかったはずだった。

なぜ自分が毛布1枚で寝ていて、妻が布団を一人占めしているのか。

朝から些細なミステリーに頭を割く余裕はなく、疑問はそのままに出社した。

 

その日の夜、眠りに落ちる前に朝の毛布の件を思い出し、妻に尋ねてみた。

すると、「あなたが布団を奪ったので、それを取り返して、あなたには毛布を掛けておいた」と言われた。

それで思い出した。

以前にも同様のことがあったとき、妻は私に布団を独占させ、自分は毛布1枚で寝ていたのだった。

そのときもなぜそんな状況になったのか尋ねたら「あなたが布団を取ったから」と言われた。

毛布1枚で眠る妻が不憫だったので、「また同じことがあったら、私に毛布を掛けて自分が布団で眠るように」と言っていたのである。

妻はそれを忠実に実行しただけだった。

すべては私のせいである。

 

いびきの件と言い、一人で寝ているときにはわからなかったことが、妻と同じベッドで眠るようになってわかってくる。

しかもそれは私が意識のない間の出来事で、私にはコントロールしようがない。

別にどうというわけではないのだが、そのコントロールできないという部分に多少の歯痒さは感じる。

それも相手に不快な思いをさせているなら尚更である。

いびきは口を開けて寝ているせいなので、横向きに寝るように心がけている。

それでも寝相で勝手に上を向くようなので、TVCMでやっていた口に貼るテープで塞いでしまおうかと考えている。

果たして眠れるのかどうか疑問ではあるが、物は試しである。

 

しかし布団を取ってしまう癖はどうにもならない。

せいぜい布団を2枚にするという物理的な措置を講じるくらいである。

この癖については思い当たらないことがないわけではない。

私は眠るとき、布団を身体にぐるぐる巻き付けて、蓑虫のような状態で眠ることを好む。

幼いときからずっとそうで、なぜだか考えたこともなかった。

その方が寝付きが良い、落ち着く、暖かい、たぶんそんな感じだと思う。

今はそれを我慢している。

だが寝ている間に勝手に布団を取り上げてしまうのだから、その反動が現れているのだろう。

 

ネットなどでそういった癖について調べてみると、布団を身体に巻き付けたりする癖はストレスなどからの自己防衛が現れているそうである。

あるいは妻の言によると、私は布団を抱き枕のようにして眠っていることもあるようだ。

それは甘えたい欲求の現れだそうである。

そうすると私は幼い頃から普段の生活に不安やストレスを感じ、誰かに甘えたいと思い続けていることになる。

なるほど。

さて、思い当たる節はないが、真実どうなのだろうか。

私は自分のことをすべて知っているわけではない。

逆に自分のことに関して、知らないことが多いと言うつもりもない。

自分自身について粗方把握しているし、概ねコントロールできてはいる。

ただそれはあくまで意識に上る範疇での話である。

そもそも人間の意識に上ることなんて、割合で言えば泉の水を手で掬う程度のものではないだろうか。

それをこうやって言葉にすることで、手で掬った水が指の隙間から溢れ落ちるようにさらに減っていくので、人が思考できることなど知覚したことそのものより遥かに少ないと思っている。

 

だからどうというわけではない。

できることはない。

ただ、そんな狭い世界を自己として認識して、感じて、思考して、生きている。

そんな手水の中で一喜一憂していると考えれば、なんだか滑稽に思える。

私が好きな作家さんの小説の中に、トゥリビアルという言葉が出てくる。

瑣末な、取るに足りない、そんな感じ。

世界そのものの大きさからすれば、自分自身の存在や日常経験するあれこれなど、確かにトゥリビアルである。

そんな大きなものと比べなくても、自分の人生の長さからすれば、目の前の一瞬一瞬など、本当に一瞬でしかない。

トゥリビアルであること、しかしそのトゥリビアルがすべての世界で生きているということ。

人間なんて、大したことないのである。

 

とりあえず、妻に余計な手間をかけさせないよう、自主的に初めから毛布1枚で寝るようにしている。

しかし、これなら布団は2枚でいいのではないか。

風邪をひく前に具申してみることにしよう。