異呆人

毒にも薬にもならない呟き

スーパーの彼女

うちの近くにはスーパーが2軒ある。
某大手スーパーと地元で数店舗のスーパーである。
某大手スーパーはうちのある側とは反対側の駅の出口にあって、さすがの品揃えと安さである。
地元のスーパーはうちに帰る道の途中にあるのだが、品揃えが今ひとつで値段は普通である。
めんどくさがり屋の妻は地元のスーパーに行くことも多いが、安い物が大好きな私としては必然的に某大手スーパーに足を運ぶことになる。
たかが1、2分のロスである。
お得感で心を満たすためなら、それくらいの労は惜しまない。

さて、そのスーパーに通い始めてから、そこで働く人の中にとても気になる女性を見つけた。
歳の頃は20代半ばくらいに見える。
可愛らしい感じで、ハキハキしていて気持ちがいい。
声も少し特徴的で、アニメの少年のような声である。
そんな彼女のことが最初に気になったのは、尋常でなくレジ打ちが速かったからだった。
他のレジの列より1.5倍くらい捌ける時間が早い。
高速で鳴らす私のタイピングに匹敵する速度でレジを打ち、バーコードを読み取り、それでいて愛想良く的確に接客する。
若いが大したものだなと感心した。
うちの職場にスカウトしたいくらいの手際だった。
せっかちな私は、スーパーではどの列に並ぶのが一番早いか、できるだけ短時間でチェックする。
彼女がいると必然的にそこに並ぶようになった。

もう一つ気になったのは、相手の目を見て接客することである。
初めて彼女の打つレジに並んだとき、いやに前の客の目を見てお釣りを渡しているなと思った。
軽く会釈するときも、相手を見つめながら頭を下げる。
よく来る馴染みの客なのかなと思ったのだが、初めて接する私に対しても同じようにこちらを見た。
普通の接客ではぼんやり顔全体を見るように相手を見ることが多いのだが、彼女は目の中を覗き込むようにこちらを見る。
私は普段、意図的に相手の目を見ないようにする人間なので、そうやって見られるととても戸惑う。
彼女はきっとそれを自分のスタイルとして接客しているのだろうが、私は意地でも目を合わせないようにしていた。
単に若い女の子に見つめられると気恥ずかしいというのもある。
こんな風に見つめられるなら別のレジに並びたい。
でも彼女はレジ打ちが速い。
そんな変なジレンマを抱えることになる。

あとは直感として、彼女に人間性の特殊さを感じるのだ。
私の周りには一風変わった人というか、一癖も二癖もある人が集まってくるのだが、彼ら彼女らと同じ匂いを感じる。
興味深い。
そんな風に思って彼女を観察していると、彼女がスーパーに来る客たちからとても愛されていることがわかる。
レジではその超速のレジ打ちの合間に愛想良く世間話をし、ときには差入れをもらったりしている。
差入れは一度や二度ではない。
客の中には、彼女に会いにスーパーに来ているような人すら見受けられる。
わざとやっているのか、副産物的な効果で人を惹きつけるのか。
いずれにせよ、一般的にはそれを魔性と言う。

私がそうやって彼女を観察しているからだろうか、彼女からも視線を感じる。
買い物で店内を歩き回っていると、品出しをしている彼女に見つけられ、見られている感じがする。
気のせいかもしれない。
あるいは単によく来る客だなと思われているのかもしれない。
しかしなんだかあまりに見られている感じがするので、最近は彼女の立っているレジを避けるようにしていた。
ちらちら見てくる奴だと思われるのも恥ずかしい。
何より彼女は相変わらず、接客のときに相手の目を直視する。
それがどうも苦手である。

先日、レジで会計していると、買い物カゴの回収で彼女がレジの中に入ってきた。
不意を打たれ、「あっ…」と思った瞬間、彼女と目が合った。
彼女は満面の笑みで「へへっ」と言って笑った。
「よく来てますよね、知ってますよ」とでも言うような、「やっと目を合わせてくれましたね」とでも言うような、意味ありげな笑い方だった。
私はすぐにまた目を逸らし、会計を済ませてそそくさと立ち去った。
なるほど、彼女に差し入れしたり、世間話に来る客の気持ちがわかる。
スーパーの彼女には、なかなかにスーパーな魅力がある。