異呆人

毒にも薬にもならない呟き

妊娠したかもしれない

「妊娠したかもしれない」

家に帰ったら、妻がいきなりそう言った。

なんでも、生理が遅れているらしい。
女性にとってそれが一般的なのかどうか知らないが、妻は生理が来た日にちを帳面につけていて、次がいつか来るかとかを正確に把握している。
その予定の日より1週間以上遅れているとのことだった。
自分で妊娠検査薬を使ったらしいが、なにぶんそんな経験は初めてだったそうなので、使い方が合っているかどうかもわからないらしい。
一応使ってみた検査薬の結果は陰性だったらしいが、体調も悪いし心配だから病院に行ってくるとのことだった。
 
夫婦二人の見解として、子供は欲しいが新婚旅行が終わってからにしようと話をしている。
新婚旅行は来年の初めに海外に行くことを決めている。
妊娠してつわりが辛い状態で行くのは大変だし、子供ができてから海外旅行となると、もっと大変かもしれない。
そういった理由からである。
私は海外に行ったことがない。
大して行きたいとも思わない。
金銭的な余裕もない。
だから今生、新婚旅行が最初で最後の海外旅行のつもりでいる。
妻もまぁそうそう行けないだろうとは思っているらしく、だからこそ海外に行きたいと主張したし、楽しみにしているのだろう。
まぁ、気持ちはわからんでもない。
 
だから、「妊娠したかもしれない」と聞いて私の頭の中に真っ先に浮かんだのは、旅行はキャンセルしなければならないということだった。
普通、子供が出来たと聞いたら喜ぶところなのだろうし、いささか不謹慎かもしれないと思ったが、実際そうなのだから仕方ない。
私はそんな風にできている。
さておき、そんなこんなで翌日は少し落ち着かない気分だった。
もちろん普通に仕事をしていて、むしろ「タダで豪華な飯が食えると言われても行きたくないくらい嫌な会食」があったのでそれどころではなかったのだが、それでも時々一息ついたときにそのことを思い出した。
避妊はしていたが、思い当たる節がまったくないわけではなかった。
それは妻もそうで、だからこそ念のために病院まで行ったのである。
 
結果から言えば、妊娠していなかった。
可能性0%という感じである。
杞憂に終わって良かったというべきか、残念だったと思うべきか。
それを判じかねたので、妻に偽らざるその気持ちをそのまま伝えた。
「良かったっていうべき?残念だったっていうべき?」
「私は旅行行けないってちょっと凹んでたから、良かったでいいと思う」
どうやら妻も同じ心配をしていたようである。
まぁ、そりゃそうか。
私より遥かに、妻の方が旅行を楽しみにしている。
そして妊娠してなくて良かった理由の一つとして、「作った感がなかったし」と言った。
 
「作った感って何?」
私は思わず聞いた。
「そのつもりはなかったけどできちゃった、とかじゃなくて、作ろうと頑張ってできた、っていうのがいい」
「何、じゃあいっぱい中に出してあげればいいの?」
「うん、そう。入ってきてる、っていうのがほしい」
「それ、いる?」
「いる」
私は子供が出来るならどんな方法でも一緒だと思っているので、中に出したいとかそういう気持ちはない。
ゴムをつけるのがめんどくさい、もしくは流れを遮るので鬱陶しいと思うことはあるが、その方が気持ちいいと思ったことはない。
どちらかというと、征服欲を満たすための、あるいは子作りのための本能に起因する男の身勝手な欲望だと思っていた。
だから女性である妻が「中に出して欲しい」と言うのは、ちょっと意外だった。
そうすることで愛情を感じられたりするのだろうか。
男の私では一生わからないことかもしれない。