異呆人

毒にも薬にもならない呟き

プレミアムフライデーは誰のため

先日、会社の飲み会が中止になった。

体調不良者が続出し、前日には中止になることが決まっていた。

私は妻にはその日が飲み会であることはだいぶ前から伝えていたのだが、中止になったことは伝えなかった。

行けるメンバーだけで飲みに行く可能性があるかもしれないと思ったからでもあるが、そうならなければたまには一人で飲みに行きたいなと思ったからでもある。

飲み会の予定だった日、結局、飲みに行こうとはならなかったので、私は一人で飲みに行くことにした。

どこに行こうかなと考える。

さほど飲み歩くことが好きなわけではない。

家の近所で飲みたいが、妻に黙っている手前、それはリスクが高いだろう。

さりとて会社の近くというのも、誰かに見つかるといろいろめんどくさい。

あれこれ考えた末、帰り道、新橋で途中下車した。

 

定時で上がったので、比較的早い時間帯である。

ちょうど帰り道だろう会社員の群れに揉まれるように、改札を出たあたりで立ち尽くす。

どこに行こうかと考えたが、特に食べたいものはない。

飲みたい酒の種類もない。

一人で飲みに行きたいというより、一人になりたかっただけである。

それもたくさんの人がいる中で一人になりたかった。

喧騒というのはときに静寂以上に自分を周囲から隔離するシェルターになる。

木を隠すなら森の中。

いや、少し違うか。

 

結局、駅近のテナントの中にある安い居酒屋に入った。

串揚げをウリにしていたが、大して美味しそうには見えない。

むしろ積極的に言えば、他にもっと美味しそうな店はたくさんある。

そのチープさというか、安易さが良かった。

たこ焼きと生ビールのセットが安くて、それを注文した。

注文するときに、最近よく見るニコちゃんマークみたいなものが目に入った。

そう言えば今日は月末の金曜日、「プレミアムフライデー」だと気がついた。

店内はさほど混雑していない。

普通の週末と変わらなさそうだ。

これは入った店のせいかもしれないが。

軽くほんの一杯引っ掛ける程度の場所で、客が入れ替わり立ち替わりしていく。

 

うちの会社にはプレミアムフライデーなんていう、プレミアムで洒落たものはないので、誰もその名を口にしていなかった。

定時の17時に退社したが、「今日は早帰りできるから飲みに行くぞ!」みたいな人たちも見かけなかった。

すっかり落ち着いたと言えるかもしれないし、小売の人たちからすれば「いやいや、まだまだこれから」と思っているかもしれない。

いずれにせよ、奇妙な取り組みではなる。

消費喚起を狙ったものであることが明言されている。

国のお墨付きを得ている。

そのわりには地域振興券のようなバラマキではなく、金のかからない号令だけの取り組みである。

頭を使ったとも言えるが、このままでは掛け声倒れに終わりそうな雰囲気がする。

 

そもそもプレミアムフライデーは小売企業が儲けるための施策である。

川下の小売が潤えば、卸やメーカーなどの上流も潤う。

みんなで盛り上げてみんなで儲かりましょうというのだから悪いことではない。

ただし、踊るのは一般の消費者である。

いわば私たちが踊れる状況になければ、祭り自体が失敗に終わる。

プレミアムフライデーは消費喚起のイベントなので、踊るために必要なものは金と時間である。

そして私たちに踊るための金と時間を工面するのは、当の企業なのである。

このあたりがなんとも、「卵が先か鶏が先か」みたいで苦しい。

 

つまりプレミアムフライデーを成功させようと思うなら、従業員の給料を上げ、早く帰れる業務体制を敷かなければならない。

しかしそれができるだけの余裕のある企業は少ない。

というか、普通にやっててあまり儲からないから(消費が弱いから)、こんな茶番をしようというのである。

そもそも前提条件に無理がある気がする。

プレミアムフライデーに欠けているのは、消費者の視点である。

だから取ってつけた感がある。

「金曜早帰り、いいね!」と思う人は多いと思うのだが、それは極端な話、「宝くじが当たったらどうしますか?」というのと同じだと思う。

たぶん宝くじの話などすると、夢を語る人が多いのではないかと思うが、実際に当たったら貯金したりする人(現実的な使い道を考える人)がほとんどではないだろうか。

プレミアムフライデーも同じで、早帰りできたら「みんなで飲みに行きたい」とか「金曜夜から旅行に出たい」という人は多いかもしれないが、いざ早帰りできるということになると、「家でゆっくりDVDでも見ながらビール飲みたい」と日常の延長線上でものを考える人が多いのではないだろうか。

 

そんなこんなを考えながら、ビールを飲み、2杯目にハイボールを飲み、1時間くらいしたら店を出た。

やはり安い居酒屋である。

椅子の座り心地が悪く、長居するには辛い仕掛けになっている。

飲みに行くと言った手前、あまり早く帰るのも良くない。

駅のホームのベンチでスマホゲームでもしながら、もうしばらく時間を潰した。

たぶん私にプレミアムフライデーが提供されても、ろくな使い道はされないだろうことは明らかである。