異呆人

毒にも薬にもならない呟き

妻との向き合い方

妻は以前、うつ病と診断されていたらしい。

それは付き合っていたときに聞かされた。

とても重大なことを伝えるという前置きを持って聞かされたのだが、私からすれば「なんだそんなことか」という感じだった。

もちろん、彼女が思いつめた覚悟を持って話してくれたことは重く受け止めるが、私にとってそれは大した問題ではない。

私は彼女の真面目でひたむきな人間性を好ましく思って交際したのである。

しかし真面目さやひたむきさというのは、ときに自分を追い詰める方向に働くこともある。

それは人生においていろんな人間を見てくれば、自然とわかるものだろう。

だから私が彼女のそんな部分が好きなのであれば、そういったリスクはコインの裏表のように付いてくるものだと思う。

少なくとも、私と交際した段階では薬も飲まなくていいようだったし、気をつけて見ていればいいくらいではあった。

 

妻は感情のキャパシティが小さいので、すぐに爆発したりパニックを起こしそうになる。

旅行に行ったとき、宿のチェックインの時間に遅れそうになっただけで、「どうしよう、どうしよう」と、ものすごく焦る。

そんなものは宿に電話一本入れれば済むだけの話なのだが、そうとわかっていても気持ちが抑えられないのだろう。

私などは、宿の予約の日にちを間違えたことに旅行の前日になって気付いても、焦らずに今から泊まれる宿を探すくらいである。

ちょうどその旅行の最後にレンタカーを返すときも、渋滞にはまってレンタカーの営業所の閉店時間に間に合わなくなった。

妻は道中やきもきしっぱなしだったが、とりあえず電話を入れて翌朝返せばいいということになっていたので、そこから先は何をどう焦っても仕方ないことである。

ただ、頭でわかっていても感情がついてこないのだろう。

ちなみに私はその翌日休日出勤で出張だったので、朝一に横浜でレンタカーを返してから、急いで神戸に向かう有様だった。

 

そんな具合なので、彼女のキャパシティをオーバーしそうな感情は、私が代わりに受け入れることにしている。

どうしたらいいかわからないことがあれば、すぐに連絡するように言ってある。

私がキャパオーバーで慌てるようなことは、たぶんもう人生において二度とないだろうし、たいていの事態には対応できる万能さは持ち合わせている。

だからそういうときは、遠慮なく頼ればいいのである。

 

あと、付き合う時から一つだけ約束していることがある。

それは「言いたいことは必ず言うこと」である。

我慢しないこと。

私はエスパー並みに人の気持ちを察するが決してエスパーではないし、周りからスーパーマンだと言われるが決してスーパーマンでもない。

言われなければわからないことも、気づかないこともある。

そもそも異なる環境で育った人間が一緒にいるのだ。

それぞれのスタンダードが異なって当たり前である。

直せるところは直すし、直せないところは妥協点を探るしかない。

一番良くないのは不満を溜め込むことである。

それが私への攻撃性となって発露されるならまだいいのだが、妻の場合は「自分に至らないところがあるのかもしれない」とか考え出す。

それで精神状態を悪くされる方がよほど大変である。

だから言いたいことは必ず言ってもらう。

 

以前、結婚式の話をいろいろしている中で、私がついああだこうだ難癖をつけてしまったことがあった。

正論ではあったが、妻の感情を顧みない発言だったと思う。

妻はしょげかえって、泣きそうになってしまった。

自分が悪いと思ったらしかった。

ちょうど何かの作業をしていたときだったのでフォローを疎かにしていたら、いつのまにか部屋からいなくなってしまった。

トイレにでも行ったのかと思ってそのまま作業を続けていると、そのうち部屋の隅からすすり泣く声が聞こえてきた。

押入れのあたりである。

まさかと思い、恐る恐る押入れを開けてみると、妻が三角座りをして泣いていた。

ホラーか。

そうでなければ、ギャグか。

とりあえず思い切り慰めた上で、押入れの中で泣くことは禁止した。

 

以後、妻は感情を抑えきれなくなると、ベッドの上で布団をかぶって泣いているようである。

泣きたいだけ泣いてある程度感情が収まってから、私は慰め始める。

平和だなと思う。