異呆人

毒にも薬にもならない呟き

ひとりわんこそば

Netflix野武士のグルメお題「ひとり飯」

 

最近結婚して「ひとり飯」の機会は少し減ったが、独身の頃は一人暮らしの十数年間ほとんど「ひとり飯」だったわけである。

だが「ひとり飯」だなんて「」つけて言うほどのものではなく、ほとんどがインスタント食品や、スーパーで出来合いの惣菜を買うような食事だった。

美味しいものを食べることは好きだが、私の美食への欲求は世間一般の人よりずっと低いと思われる。

基本的に、腹に入れば何でも同じだと思っている。

今でも出張時などは「ひとり飯」になるわけだが、食事のほとんどが菓子パンである。

すぐ食べられ、車を運転しながらでも食べやすく、安くて高カロリーで血糖値が急上昇するため満腹感があり、甘いもの好きの私にとっては最強の食事の一つである。

三食菓子パンでも平気である。

学生の頃、毎日昼食にチョコチップメロンパンと魚肉ソーセージを食っていたら、気がふれた奴かと思われていたほどである。

 

たまに外食するときも、せいぜい牛丼か麺類程度である。

高いので、ひとり飲みをすることもない。

酒を飲むなら家で飲む。

食事という一瞬の悦楽に、大枚を叩く余裕と心意気がない。

出張が多いので、ご当地グルメを食べることはある。

もちろん、旅行のときもご当地グルメを食べたりする。

この場合、大切なのは「美味しいかどうか」という味ではなく、「〜で◯◯を食べた」という体験そのものである。

自分の経験の引き出し、話題の一つとしてストックするのである。

だから大抵の場合、再びその土地を訪れることがあっても、同じものを食べることはない。

 

繰り返し訪れ、訪れるたびに食べるご当地グルメなど、香川の讃岐うどんくらいしかない。

讃岐うどんは美味いし、何より安い。

トッピングのバリエーションの豊富さも魅力である。

讃岐うどんを食うときは、いつも「しょうゆ」を頼み、その上に大根おろしと生姜をたっぷりかけて掻き込む。

その日の気分で「かしわ」を付けたり、「じゃこ天」を付けたりする。

先日は「いいだこ」が美味かった。

もちろん、「ひとり飯」である。

 

讃岐うどん以外だと、名古屋で「きしめん」を食うことはある。

夕方、東京に帰るまで時間のあるとき、名古屋駅の新幹線ホームにある「駅きしめん」を食べるのである。

こちらもトッピングのバリエーションがあり、夏は「冷やし」があったり、名古屋らしく「味噌煮込み」があることもあるが、私のお気に入りは普通の「きしめん」である。

カツオの効いた出汁に麺とねぎ、その上から鰹節をのっけるだけ。

安いし、寒い季節は臓腑の中から温まる感じがする。

立ち食いで、さっと掻き込むにはこのくらいがいい。

何千円もする料理ほど味に工夫や奥行きがあるわけではないが、ワンコインでお釣りが来るくらいでも、シチュエーションが整えば至福を味わえるものである。

こちらも、もちろん「ひとり飯」である。

 

そんなご当地グルメ「ひとり飯」の最も印象深い思い出は、盛岡で「わんこそば」を食ったことである。

東日本大震災より前、自家用車で車中泊をしながら一人で東北をぐるっと一周、旅行したときのことである。

その日は午前中に青森は十和田湖で観光し、お昼頃に盛岡に着いた。

「盛岡=わんこそば or 冷麺」という頭だった私は、せっかくなので「わんこそば」に挑戦してみることにした。

ネタ、というか思い出になるだろうと思ってのことである。

確か駅前の何とかいう老舗っぽい店に並び、数十分待ってから中に入った。

当然ながら客は観光客ばかり。

そしてこれも当然ながらグループ客ばかりだった。

 

私は「わんこそば」のシステムを知らなかった。

入ってから説明を受けて理解したのだが、「わんこそば」というのは給仕の人が一人ついて、次々とお椀にそばを入れてくれるらしい。

そして満腹になったら、さっと椀に蓋をする。

給仕の人は空いているお椀を見つけたら、問答無用でそばを投入してくるようだった。

合いの手を入れながら、「ハイ、ハイ、ハイ」ってなもんである。

広い座敷に通され、隣のグループが食べているのを見ていると、大勢でやっていると楽しそうだった。

女の子なんかは、他の人のお椀にそばが入れられている隙にさっと蓋をする。

人数が減って来ると給仕さんとほぼタイマン状態になり、いかにさっと蓋をするかでさらに盛り上がる感じである。

 

私は一人だった。

そして給仕の人も一人付けられた。

マンツーマンである。

「ハイ、ハイ」という威勢の良い掛け声の中、黙々と一人そばを食べ続ける。

隣のグループ客にガン見される始末である。

自分から店に入っておきながらなんだが、もはや罰ゲームじゃないかという気がしてくる。

何杯食べたかは覚えていない。

最後、椀に蓋をする際に、「もうやめておきましょうか」と言わんばかりの、給仕さんの憐憫たっぷりな顔だけが、やけに印象に残っている。

「ひとり飯」はなかなか良いものだが、「ひとりわんこそば」だけはオススメしない。

 

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