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異呆人

毒にも薬にもならない呟き

本質は細部にまで宿る

仕事

「どうしたら朱天さんのようにできますか?」と、会社の後輩に聞かれた。

仕事の話である。

すごくぼかした大雑把な説明になるが、今の私の部署の仕事には、外回りの営業だけでなく取引先とのやり取りがすべて含まれている。

取引先から上がってきた発注書類を処理するのは別の部署の仕事だが、その書類に不備があった場合に、取引先に不備内容の確認や書類の書き方の指導をするのは私たちの仕事である。

この不備として回ってくる書類の量が、明らかに人によって違う。

それは自分の取引先の担当者が、きっちりしてるかルーズかなどの人間性に依拠する部分もあるが、やはりそれだけでは説明しきれない差がついたりもするのである。

 

私のところに不備として回ってくる書類の量は少ない。

常時、他の営業担当の半分くらいの量である。

社内では「朱天さんだから」と言われ、問題にされていない。

真似できないものだと思われている。

それでもどうにかできないものかと思って、後輩は冒頭のセリフを呟くように投げかけてきた。

気持ちはわかる。

この確認作業や指導は、積もり積もれば意外と時間を取られ、他の業務を圧迫するのである。

同じ取引先の担当者が同じミスを繰り返そうものなら、ため息をつきたくなるものなのだ。

 

「根気強くやりな」と、私は言った。

手取り足取り、細かい部分まで観察して後輩のやり方を指導することはできるし、そうすればあるいは彼に回ってくる不備書類は減るのかもしれないが、実際に減る不備書類の量と私と彼がそれにかける手間と時間を考えれば、実に割に合わないなと思う。

だから私が彼に言葉にして伝えてあげられることはないと判断した。

せいぜい言ってやれることは、先のセリフくらいなものである。

根気強く何度も繰り返していく中で、自分なりのやり方を見つけていくのが一番なのである。

そのためにはもちろん、ただ繰り返すだけでなく、思考しながら試行しなければならない。

ただ、「よく考えながら取り組め」ということは、言ってできる人間は言わないでもできているものだし、そうでない人間は言ってもできないものだと思っている。

それは私の他人に対する期待値が低いせいかもしれないのだが、まぁ当たらずとも遠からずだろう。

 

たとえ私が「これをこうしたら良くなるよ」と指導したとして、彼がそれを真似してうまくいくかどうかはわからない。

不確定要素に左右されにくいシステマティックな作業ならともかく、人とのやり取りには正解などない。

誰かに対して正しい対応が、他の誰かにとっても正しい対応であるわけではない。

だから試行錯誤する必要があるのである。

それに、私が伝えられる「これをこうしたら」の中には、確かにその仕事の本質が含まれるかもしれないが、それだけをもってうまくいくとは限らない。

例えば人とのやり取りにおいてであれば、声のトーンや、間の取り方や、言葉の選び方など、細かいことまで気を配る必要があるのだ。

「本質は細部に宿る」と言ったりする。

これはある意味正しいが、ある意味違っていると思う。

要約のような物事の根幹が本質であることは間違いない。

ただその根幹に付随する細かな枝葉にも大切なことは含まれている、というか、細かな枝葉まで含めて全部が本質なのである。

だから「本質は細部にまで宿る」というのが正しいのではないだろうか。

 

私が「こうすればうまくいく」的なマニュアル本や自己啓発本が嫌いなのは、こういったところにも理由がある。

確かにそのような書籍における「こうすれば」は間違ってはいないし、本質的だろう。

だが、それを実践して成功している人というのは、それ以外の細かい部分でもいろんな努力や取り組みをしているだろう。

全部が全部、言語化すること自体不可能なのだから、そっくりそのままコピーすることも不可能なのだ。

本質が含まれているのだから一部参考にはなるだろう。

だが真似することは間違っていると思う。

与えられた環境や条件は人それぞれ違うのだから尚更である。

 

また、自分なりの「最強の仕事法」を模索することは、一つの楽しみなのではないかと思う。

ベースとなるやり方は、市販車を買ってくるように、どこかから借りてきてもいいかもしれないが、それを自分なりに改造して、ワンオフを作り上げるのである。

何が自分の長所で何が自分の短所か、それを生かすため補うためには、何を武器とすればいいか、どんな戦略を取ればいいか、それらを一つ一つ組み合わせてシナジーを最大化するのである。

仕事なんて8割方つまらないものなのだから、そうやってゲーム的に解釈して、自分のモチベーションを上げていかないとやってられないだろう。

少なくとも、私はそうである。

 

話が逸れたが、仕事はきちんと細部にまで筋を通して、自分なりの本質を組み立てていくのが一番なのである。

そうすれば他人には真似できないものになるし、真似できないが故にその人の絶対的な強みにもなる。

まぁでも、こんなことを言ってるから「人を育てるのが下手な奴」なんて言われたりするのだが。