異呆人

毒にも薬にもならない呟き

男性は草食化しているのか?

toyokeizai.net

「近頃の若いモンは…」というセリフが、昔からずっと使われてきているという話自体は、かなり使い古された言い回しであるが、この記事の指摘はまあまあ面白いと思う。

統計の要素データに対するツッコミが、である。

統計というのはとても便利なもので、パッと見て物事の傾向が読み取れるような気がするものである。

しかしそれが実のところ何を意味しているのかはとても難しい問題で、きちんと因果関係を訊していく必要がある。

自分の見せたい結果が見えるように恣意的に使うデータを選べば、格好がついてしまう。

だからこそ、データの取り方から見せ方まで、慎重に進めるのが学術的な研究だったりする。

冒頭の記事で取り上げられている出生動向基本調査の場合は、恣意的な見せ方をしようと作られているのはなく、それを読む側が読み間違いをしているだけだろうが。

 

私はきちんと統計学を学んだことはないが、学生時代に調査手法としてアンケートや統計分析を使っていたので、少しは勉強させられた。

アンケートなどは、作るのがとても難しい。

先述のように、自分が望む通りの回答を引き出すように質問を設定してしまわないように気を使う必要があるし、逆に回答の解釈の余地が広がりすぎないように質問を設定する必要もある。

ニュアンスの伝わる会話ならともかく、文字だけで解釈の余地を限定しながら質問を組むのは意外と難しい。

統計分析を使う場合も同じである。

分析手法というのはいろいろあるが、その妥当性というのは常に意識されなければならない。

自分が望む解釈が表れるように使う手法を選んでいたのであれば、裏側に潜む真実というのはわからなくなる。

そんな分析ならしない方がいい。

 

上の記事における2点の指摘、すなわち出生動向基本調査において「交際相手」に「異性の友人」が含まれている指摘と、「恋人がいる率」の割合はいつの時代も3割程度であるという指摘は、正しいし興味深いと思う。

しかしこの統計に対する解釈もまた、男性の草食化という文脈を捉える上では恣意的ではないかと思える。

疑問点の一つは、「恋人がいる率」が男性の草食化を表す上で重要であると考えている点、つまり「草食化しているかどうかは、彼女がいる人の割合で判断できる」と考えている点。

もう一つは、「恋人がいる率」が一旦上昇した後に下降していることに対して、「80年代の水準に戻っただけ」という解釈をしている点である。

 

一つ目については、一般的に言われる「男性の草食化」というのは、「彼女がいるかいないか」という結果や状態ではなく、「彼女が欲しいと思っているかいないか」というマインドで判断すべきではないかと思う。 

「彼女が欲しいと思っているかいないか」というマインドの割合は、最近では民間企業でアンケートを取っているところがいくつかあるが、経年的に調査しているものはパッと調べた範囲では見当たらない。

単発の調査結果では、「草食化」を判断するのには無理がある。

「恋人がいる率」がいつの時代も3割程度という統計は、男女のマッチングの成功率が3割程度であることを意味するにすぎない。

「すごく彼女が欲しいと思っているけどできない人」と「彼女なんていらないと思っている人」は、この統計においては同じ扱いをされてしまう。

それでは「草食化」の判断などできないだろう。

 

あるいは「草食」という単語に焦点を当てるなら、「草食」であっても彼女が欲しいと思ったり、結婚したいと思うことはあるわけで、もっと具体的なアプローチや行動に絞って「草食化」の判断をすべきではないかと思う。

例えば、「セックスに対してどれだけ積極的か」というのは、「肉食」か「草食」かの一つの判断基準でないだろうか。

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上の記事の中ほどには、最初の記事の「恋人がいる率」のデータ元である出生動向基本調査における、男性の「未婚で性体験なし」の回答率がグラフ化されている。

これを仮に「童貞率」と呼ぶなら、10代での「童貞率」は1987年の71.9%から2005年の60.7%まで段階的に11.2ポイントも下落し、そこから2015年には72.8%と12.1ポイントもの大幅なリバウンドを見せている。

20代前半で見ても、1987年の43.0%から2005年の33.6%まで9.4ポイント下落し、そこから2015年には47.0%と、こちらも13.4ポイントもの大幅なリバウンドを見せている。

カーブを描いて元に戻っているという傾向だけで言えば、冒頭の記事の「恋人のいる率」と同じであるが、こちらの方がより傾向が顕著である。

この手の統計で10ポイントも上下に振れるというのは、非常に大きな変化だと言っていいだろう。

調査手法が途中で変更されたのではないかと疑いたくなるくらいである。

余談だが、こちらのサイトはアイコンのカジュアルさに反して、考察が硬派で非常に面白い。

 

さて、ここまできてもう一つの疑問点である。

この傾向を単に「80年代の水準に戻った」と解釈して良いだろうか。

気になるのは、女性の「未婚で性体験なし」の回答割合(=処女率)の推移である。

女性の「処女率」の方が変化が急激だが、2005年のピークに向かって低下し、そこからリバウンドしている傾向は「童貞率」と同じである。

しかし2015年の「処女率」は、「童貞率」のように1987年の水準まで戻っていない。

20代前半で見れば、1987年より2015年の方が「処女率」は17.9ポイントも低い。

これは何を意味するのだろうか。

 

ここからは私の仮説である。

男女ともに2005年に向かって「童貞率」と「処女率」が低下しているのは、貞操観念が希薄化しているということだと考えられる。

セックスに対するハードルが低くなっているということである。

その昔は、婚前交渉など論外だったのだ。

だから1987年における10代の「処女率」は81%と高い。

同じ年の同じ10代では、男性の「童貞率」の方が低いのである。

これは男性の初体験の相手が5歳以上年上か、1人の女性が複数の童貞を奪っていると考えられる。

少数のビッチがいるというより、どこぞの店で筆を下ろしてもらっていると考えるのが妥当だろうか。

さておき、要は性に対する価値観の変化があってのことである。

 

では、2015年の「童貞率」が1987年の水準に戻ったということは、貞操観念が87年と同じように保守的になったということだろうか。

そんなことはないだろう。

「処女率」は1987年の水準には戻っていないのだから。

女性のガードがここ10年で幾分固くなったとしても、男性のセックスに対する積極性が同じであれば、男性の2015年における「童貞率」が1987年より高いなんてことにはならないはずである。

つまり全体としては、男性のセックスに対する積極性が低下している、「草食化」していることが推察される。

「処女率」が戻りきらない差分は、少数の「肉食系」男性が貢献しているのだろう。

あくまで仮説だが。

ちなみに、同じ記事内にある「年齢階層別にみた独身に留まっている理由」の推移も面白い。

「自由や気楽さを失いたくない」が幾分低下しているのに対して、「異性とうまく付き合えない」や「結婚資金が足りない」が顕著に増加している。

「童貞率」とは関係ないが、コミュニケーション不全や経済力の低下が、「男性の草食化」と関係しているのかもしれない。

 

冒頭の記事の筆者は、「男性は草食化なんてしていない!」という視点で統計を読むから、そのように見えたのかもしれない。

実際には、一般的に言われる「草食化」の傾向は統計から読み取れる。

ただ私自身は、その傾向を「草食化」と呼ぶのは少し違うのではないかと思う。

男性は、女性との交際やセックスに興味がなくなったのではない。

それ以外に楽しいことが増えた、交際やセックスの相対的な価値が低下しただけだと思う。

結婚したくない人が増えている件 - 異呆人

この記事にも書いたが、社会環境が大きく変わってきているのである。

それに合わせて価値観も変わってきて当然である。

セックスがカジュアル化して「童貞率」や「処女率」が下がったように、人生における楽しみが複線化したために「童貞率」や「処女率」が上がったのである。

それは「男性の草食化」なんて言葉で片付けていいものではなく、もっと根源的で複雑で大きな社会の変化だと思う。

「男性の草食化」が話題になった際に、「女性が魅力的でなくなったから」、「男性の草食化なんてモテない女性の言い訳」と反論する男性もいたが、そんななじり合いとも別次元の問題である。

 

まぁ、そんなことを言っている私は、周囲から「草食」や「絶食」のレッテルを貼られて生きてきている。

先日、会社の忘年会で同僚の女性たちが、「朱天さんって、ヒラマサさんに似てるよね」と言ってうなずき合っていた。

「えっ?ヒラマサさんって、誰?」となった私だが、よくよく聞くと最近流行りの「逃げ恥」に出てくる人物らしい。

私は「逃げ恥」のドラマも漫画も見たことはないが、ググって調べていくと大体どんなキャラクターかわかった。

これも「草食」と言われているのと同じようなものだろう。

ただし私なら、ガッキーと同棲したら一晩も我慢できないと思うが。