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異呆人

毒にも薬にもならない呟き

妹の料理

出張の関係で実家に宿泊していた。

ちょうど母親の誕生日で、母と父は食事に出かけることになっていたので、妹が食事を準備してくれることになった。

妹はアラサーのフリーターである。

少し前に、私より年上のアラフォーの彼氏と同棲すると言って実家を出たのだが、知らぬ間に戻ってきていた。

もうここまで書いた段階で、世間的にはダメな感じしかしない。

最近流行りのドラマか何かに出てきそうである。

ドラマだったらここらあたりでクセのあるイケメンが出てきて、一悶着あった末にハッピーエンドといくのだろうが、現実がシビアなことは私が改めて言うまでもない。

せめてもの救いは、戻ってきた後の妹が少し明るくなったことくらいである。

何か吹っ切れたのだろうか。

兄としてはとても複雑な心境で、聞きたいこともいろいろあるのだが、何も言わないし聞かないことにしている。

 

妹は器量は悪くない。

性格も悪くはない。

ただし人見知りで、ちょっとばかり拗らせているというか捻くれている。

いろいろあってそうなったわけで、近親者に対してのコメントとしては適切でないかもしれないが、人生というのは数奇なものだなと思う。

何か一つ二つ彼女にとって良い方向に作用することがあれば、もっと社会的に幸福な人生が送れていたのではないかと思う。

まぁ余計なお世話だろう。

私の人生だってはたから見れば、「もっと上手くいったはずのものを、どうしてそこまで台無しにできた?」と言われるようなものである。

 

さておき、その妹が料理を作ってくれるという。

嫌な予感しかしない。

ちょうど前の彼氏と同棲するという話になったあたりから、何かに目覚めたというか、思うところがあったのだろう、急に料理の練習などをし始めた。

ちょうどその最初期に、それもまた私が出張で実家に宿泊しているときに、妹が料理を作ってくれたことがあった。

母が夜、不在になる日だった。

仕事を終えて実家に帰り着くと、当の妹は料理を作ったあと友達と遊びに出かけており、テーブルに料理だけが乗っかっていた。

どうも私が一番に帰宅したようだった。

テーブルには筑前煮と、ツナとブロッコリーのサラダがあった。

 

妹の料理など食べたことはなかったので、ワクワクドキドキである。

筑前煮などという高度な料理を妹が単独で作れるわけはなく、そちらの下ごしらえは母親としただろう。

あとはサラダである。

爆弾はなさそうだと、とりあえずは安心した。

安心したのだが、しかしそれが早計だったということをすぐ思い知らされる、ブロッコリーを一口食べて。

一口かじった瞬間、あるまじき歯ごたえを感じた。

ブロッコリーが生だったのである。

不意打ちだった。

 

大して料理をしない私でも、ブロッコリーは茹でて食べるものだと心得ている。

妹は何を考えてこのサラダを作ったのだろう。

もしかして、普段食べているブロッコリーは生であの食感だと思っていたのだろうか。

私は異変を感じながらも、ガリガリと噛み砕いて飲み下ろした。

妹にはこれからも料理を続けてもらって、精進してもらわなければならない。

そのためには、料理をすることに嫌な思い出がついて回ってはいけない。

私は褒めて伸ばす主義である。

ここは愛をもって完食し、「美味しかったよ、でもブロッコリーは茹でた方がいいよ」と努めて前向きに感想を述べるべきだと思った。

母からは「あんた、よく完食したね」と引かれたが、私の気持ちが通じたのか、妹はその後もときどき料理をするようになった。

 

そんな出来事があってのことである。

嫌な予感がするのも無理からぬことと思っていただきたい。

仕事からの帰り道、前回と同じように料理を作ったあとに出かける妹からLINEが届いた。

「晩御飯ちょっと失敗したけど(笑)唐揚げと冷蔵庫にサラダあるのでよろ!唐揚げゎなんかかけて食べた方がいいかも…」

本当に、嫌な予感しかしない。

失敗したけど(笑)って何?

唐揚げって、鳥に衣をつけて揚げるだけじゃなかったっけ?

私、揚げ物には調味料をかけない主義なんですけど?

 

実家に着くと、またしても誰もおらず、テーブルには唐揚げが乗っかっていた。

鎮座していたのは、漆黒の衣をまとった唐揚げである。

今回はフェイントとかナシで、見た目からして明らかにおかしい。

揚げ過ぎて焦げたとか、そんな感じではない。

いろいろな可能性を想像して、衣をつけたあとで醤油か何かをつけて油に放り込んだのではないかと思料した。

私はとりあえず目の前の唐揚げを無視して、冷蔵庫のサラダを取り出した。

皿にレタスと卵サラダらしきものが乗っかっていて、唐揚げを載せるスペースが空けられていた。

卵サラダってどんなものだったかいまいち思い出せないが、少なくともこんなに液状化した不思議な物体ではなかったと思う。

何をどうしたらこうなったのだろう。

 

そして、実食。

とりあえず唐揚げは衣を剥いだ。

もはや唐揚げでもなんでもない。

衣を剥いでわかったが、片栗粉が付き過ぎており、鎧のようになっていた。

妹は、これが何かかければ食べられる物だと思ったのだろうか。

まぁ肉だけなら美味しかった。

 

そして卵サラダである。

意外と普通だった。

と言いたいところだが、一口含んだだけで異変に気付く。

玉ねぎである。

強烈な玉ねぎの辛味が口いっぱいに広がった。

玉ねぎは確かに生でも食べられるが、それは水に曝して辛味を抜けば、の話である。

もう玉ねぎの味しかしなくて、よくわからない。

幸いだったのは、その玉ねぎがスライサーで極薄にされていたことである。

おかげで、こらえて全部飲み下ろすことができた。

 

帰ってきた妹は開口一番、「不味かったでしょ」と言って恥ずかしそうに笑った。

私は「ありがとう。美味しかったよ」と言った。

繰り返すが、私は褒めて伸ばす主義である。

いつかこの努力が報われると信じたい。