異呆人

毒にも薬にもならない呟き

住めば都①

私は今住んでいる町が、出身地も含めて5ヶ所目である。

30代前半であることを考えると、平均よりは多い方かなと思う。

直近の引っ越しだけは部屋の居心地や使い勝手が悪くて引っ越したが、それ以外は引っ越さなければならない理由があって引っ越している。

引っ越しが好きなわけではない。

ただ引っ越しを伴うような大きな環境の変化を好む傾向にはある。

まったく新しい刺激を自らに与えることは、自分自身を変化させる、つまり成長させるために必要なことである。

だからあれこれいろんなことに手を出して、マルチタレントになるくせに何一つものにならないとも言える。

 

さて、結婚することになったのだから、伴侶となる人と一緒に住むことになる。

お互いの今住んでいるところは、中距離恋愛と言って差し支えないほど遠い。

電車で2時間ほどかかる。

相手は実家暮らしなので、2人で住むことの経済的合理性は特にないが、そんなことを言って同居を拒否するくらいならそもそも結婚しない。

そこは素直に同棲する。

お互いの職場も同じくらい距離が離れているので、あまりどちらかの職場に寄るとどちらかが長時間通勤することになる。

特にどの町がいいなどというこだわりはないので、無難に互いの職場の中間点くらいで部屋を探すことにした。

 

前述のように、私は何度も引越しをしているので、不動産屋に行く機会はしばしばある。

彼女は学生時代に少しだけ一人暮らしをしていたようだが、おそらく自分で不動産屋に行くのは初めてだっただろう。

心配なことは最初からたくさんあって、私はまず彼女がどの程度妥協できるかが心配だった。

彼女の実家は田舎の方ではあるが、立地の良い立派な戸建てである。

そんな環境とストレートに比較されてしまうと、初めから選択肢がなくなる。

ちょうど最初に訪れた不動産屋の営業マンも言っていたが、「賃貸は条件が80%合えばOK」だと思う。

希望と外れる部分が1ヶ所くらいなら、目を瞑るべきである。

慎重な彼女がどこまで「それくらい、いいよ」と言えるだろうか。

 

希望の物件をネットで調べ、メールで内見を申し込んでから訪問した。

事前にある程度条件を伝え、他にも希望に合うものをピックアップしてもらっていた。

最初に訪問したのは、駅から近いが築の古い物件だった。

外観はかなり古いRC(鉄筋コンクリート)だったが、部屋の中は綺麗にリフォームされていた。

水回りは多少古いが、部屋は広くて収納も多い。

コンビニがすぐ隣で便も良かった。

私一人なら、早速即決している物件である。

ところが彼女は「日当たりが…」と言った。

確かに駅近で周辺に高い建物が多く、日当たりはあまり良くない。

というか、そもそも私の頭の中の条件に「日当たり」という項目は含まれていなかった。

彼女は猫のようなところがあるので、日の当たるところでゴロゴロできないとダメらしい。

賃貸で日当たりとは、いきなり難しいことを言う。

 

2件目は駅からやや遠いが、間取りが希望に近い物件だった。

築年数も比較的浅く、綺麗でほとんど問題はなかった。

ただ間取りを見ただけではパッと気づかなかったが、風呂やトイレがリビングと隣接していた。

おそらくこれだと、シャワーの音などがリビングにも響いて鬱陶しそうである。

おまけに洗面所とトイレの間に扉がない。

洗面所の扉があるだけである。

欧米ではよくある造りだが、これではどちらかが用を足しているのが見える状態で歯を磨くなんてことがあり得る。

こちらは私から却下した。

 

3件目は駅から遠いが、条件が良い物件だった。

築は古いが綺麗にリフォームされており、抜群に広くて家賃が安い。

彼女が出した「日当たり」という条件にも満額回答できる、南向きの良い部屋である。

ただ、徒歩20分と遠い。

2人で歩いてみたが、毎日のように歩くのはやや厳しい。

自転車やバスを使うことを提案したが、彼女はあまり良い顔をしなかった。

私一人なら軽く妥協してしまうところである。

結局、最初に訪れた不動産屋では部屋は決まらなかった。

 

そして今度は、駅を変えて別の不動産屋を訪れた。

私は当初、その駅を使うのが嫌だった。

あまり好きでないB部長が最寄りとして利用している駅だからである。

役立たずの上司 - 異呆人

さすがに頻繁に顔を合わせることはないと思うが、行き帰りでうっかり顔を合わせると、通勤片道1時間半の道のりを乗り合わせることになる。

いくら好かない相手とはいえ、わざわざ車両を変えるのも失礼だろう。

多少躊躇したが、その事情は彼女には言わず、こっそり自分の中で妥協することにした。

良い部屋が見つかるなら、それくらいは私が飲んでも構わない。

 

先の不動産屋から合わせて4件目の物件は、やや駅から遠いが総部屋数が少なくて閑静なアパートだった。

彼女がここをとても気に入ったことは、見ていてわかった。

1階が1部屋、2階も1部屋という造りなので、東西南北全面に窓が付いている。

「日当たり」という点では無敵だろう。

というか、そこまで「日当たり」は重要なのか、と思った。

築は新しくもなく古くもなく、間取りや内装もほどほどには良かった。

ただし、やや収納が少ないこと、個人的には木造だったことが気になった。

もし子供が生まれたら、1人目くらいのうちは住み続けることになる。

木造は防音性や気密性は低いので、階下の住人などに迷惑をかけないか心配である。

まぁ心配するほどのことでもないのかもしれないが。

 

続く。。。