異呆人

毒にも薬にもならない呟き

育児は性差かジェンダーか

「女性活躍の推進」というキャッチフレーズが掲げられて久しい。

実現できていないわりに、すでに使い古された感があるくらいである。

毎日、日経新聞を読んでいると、様々な企業の女性活用策が取り上げられている。

短時間勤務を広げたり、在宅勤務を認めたり、イクボス育成とか言って男性上司の意識を変えようとしてみたり、あの手この手を使っている。

まだまだ足りないと言われるのだろうが、涙ぐましいものがあると思う。

先日は、管理職に1週間の短時間勤務を強制的に体験させて家事・育児を手伝わせ、家事・育児をしながらの短時間勤務がいかに大変でどのような工夫が必要か、実感させる取り組みが取り上げられていた。

面白いし、効果的だと思う。

 

ただこういった取り組みを目にするたびに、どこまでが女性にしかできないことで、どこまでが女性にはできなことなのか、改めて考える必要があると感じる。

 例えば、女性は男性より筋力が低い。

これは性別による根本的な違い、すなわち性差である。

男子100mの世界記録を破る女子選手が現れることは、遺伝子でもいじくらいない限りあり得ないだろう。

女性自身の力によってはどうすることもできない、身体の構造上の問題である。

対して、例えば、女性の管理職比率が男性のそれより低いことはジェンダー、すなわち社会的性差である。

職務内容にもよるだろうが、仕事における女性の能力一般が男性のそれより低いということはない。

性別により長ける能力の違いはあるが、等しく機会を与えて正当に評価すれば変わるだろう問題である。

 

例えば、出産は間違いなく女性にしかできないことである。

性差と言っていい。

では、育児はどうだろうか。

男性には母乳は出せない。

しかし、オムツを変えたり、お風呂に入れたりすることはできる。

夜泣きする子を寝かしつけることもできる。

育児に性差があるかどうかは育児の範囲をどう定義するかにもよるし、子供の年齢によっても言えることも変わってくるだろう。

個人的には、育児は出産と地続きの、本来は女性が担うものだと思う。

それは上記のように、母乳が女性にしか出せないからである。

そもそも人間は哺乳類なのだから、乳を与えて子供を育てる生物であり、その乳が女性からしか出ないのであれば、どうしたって育児は女性が担わざるを得ない。

だから育児を主として女性が担うことになっている現状は、社会的に形成された役割分担ではなく、生物としての器質がもたらす役割分担である。

この場合、「母乳」にフォーカスしているので、「乳幼児期の」育児と括弧書きにする必要があるかもしれない。

 

だから「男性も育児をすべき」という議論において、男女平等の役割分担を持ち出すような人には違和感を感じる。

育児は基本的に女性が担うものであるが、社会的な文脈の中で女性の負担軽減のために男性も協力すべき、というのが本来の議論の仕方ではないだろうか。

家事はどちらがやってもいい。

「家事は女性がやるべきもの」という発想はジェンダーである。

しかし、育児を家事と同列に捉えるのは誤りだと思う。

これは「育児は女性がやれ」とか「男性が育児に協力する必要はない」と言っているわけではない。

育児は女性が担うという役割分担は発生すべくして発生しているのであり、その役割分担の形を捻じ曲げずに育児負担の軽減、あるいは育児と仕事の両立を考える必要があると言いたいのである。

だから男性は積極的に育児参加して女性の負担を軽減してあげるべきだと思うが、女性に変わって男性が育児をするという発想は捨てるべきだと思う。

 

だから乳離れしている子供の面倒を見るために男性が育児休暇を取得するのはアリだと思うが、乳幼児期に男性が無理やり育児休暇をとるのはナシではないだろうか。

育休取得最長期間の延長がなされる予定で、それに対しては「女性の仕事復帰が遅れる」などという批判もある。

ただ出産・育児で女性が職場という戦場を離れるのは仕方ないことだと思う。

大切なのは、一時的な戦線離脱の後、早く復帰することではなくスムーズに復帰することである。

そのためには個々の企業が復帰プログラムを組んで、その業種や職種にあった形を考えていくことが必要である。

加えて女性自身も、「できるだけ早く復帰してもらいたい」と会社から思われるように、出産や育児による戦線離脱前から生産的な仕事をすることが必要である。

個人的には、日本で女性の活躍が遅れている最たる理由は、仕事に対するポジティブなモチベーションが少ないことだと思う。

これは別に女性に限ったことではないのだが、生活のためとか言って仕方なく仕事をしているうちは活躍なんてできるわけはない。

文化的背景もあるので何でもかんでも欧米に倣えというわけではないが、活躍の場が欲しいというのであれば、もっと貪欲に取りに行く姿勢を持つ人が増えなければならない。

ちなみに私は仕方なく仕事をしているクチであるし、専業主夫で生活できるなら是非そうしたいと思っている。

 

まぁ人間は粉ミルクという発明品でもって、男女問わずに子供を育てられるように進歩・進化している。

だから乳幼児期から完全に男性が育児を担うことも不可能ではない。

ただ生物としての由来を踏まえて、何が最適かを考えた方がいいと思うだけである。

別に先ほどの論理から、いわゆる「完母」を推奨するつもりもない。

粉ミルクで母乳と遜色ない栄養摂取ができるなら、無理に母乳にこだわる必要はないと思う。

そのうち、出産だって性差のないものになるかもしれない。

精子卵子体外受精させて、そのまま体外で生育すればいい。

完全な試験管ベイビーである。

今でもその気になれば、技術的には可能なのではないだろうか。

そうすれば、女性は出産による職場離脱を気にしなくても済む。

もはや「出産」というより「生産」といった方がいいかもしれないが。

それを理想的と言えるかどうかは、所詮価値観の問題である。

あくまで「出産」という形態にこだわる人がいるなら、「育児」も生物としての本来的な形態にこだわらなければ辻褄が合わない。

近い将来にはそんな議論も起こるかもしれないなと思う。