異呆人

毒にも薬にもならない呟き

ファミレスに漂う人生②

アポイントの時間まで少し余裕があったのでファミレスに入った。

普段は時間潰しにファミレスを使うことはないが、ちょうど昼時で飯を食う必要があったし、ついでにドリンクバーを頼めば快適に過ごせるだろうと思った。

お昼少し前の時間で、店内は半分ほど席が空いていた。

案内されて席につきと、すぐに日替わりランチとドリンクバーを注文した。

腹が減っていた。

少し胃酸が出過ぎて胃が痛み始めてたので、早く腹に入れた方がいいと思った。

 

2つ隣の席では、中年の女性2人組が何やら話し込んでいた。

職場の同僚らしく、片方がまくし立てるように不満を述べている。

よくある愚痴のこぼし合いかと思っていると、一通り話を聞き終えた相手が「でも、あなたがそんなことする必要なかったんじゃない?」と反論を始めた。

どうやら愚痴のこぼし合いではなく、ミスをするに至った経緯を「私は悪くない」調で語る部下と、それを諌めて指導する上司、のような関係だったようだ。

あまり良い話題ではないから、会社ではなくファミレスでお茶というアンオフィシャルな場を使ったようである。

いきなり剣呑な雰囲気だ。

聞くに堪えなくて反対側を向いた。

 

その反対側の隣席では、中年の男性が書類を前にコーヒーを飲んでいた。

仕事だろうかと思ったが、カジュアルな服装である。

もしかしたらノマドワーカーかもしれない。

しかし40歳以上に見えるこの冴えない感じの(失礼)おっさんが、ノマドワーカーというのも考えづらい。

そんなことを考えながら男性の前にある書類に目をやると、某大手転職サイトの求人票画面の印刷だった。

なるほど、男性は求職者のようである。

視力が異常に良い私は、隣の席の紙面の文書くらい楽に読める。

そこには某大手賃貸住宅会社の名前が載っていた。

賃貸の不動産会社でカウンターセールスか。

そこまで悪くはないが、なかなか厳しい仕事である。

 

しかも男性はご丁寧に、募集文章にマーカーでラインを引いている。

どんな人物を求めているか、という箇所に印でもつけ、面接のときの受け答えをあれこれシミュレートしているのだろう。

素晴らしい、あるいは涙ぐましい努力である。

それだけで必死さが伝わってくる、あるいは誠実で真面目な性格が伝わってくる。

パッと見た感じでは、ニートだったようには見受けられない。

一体どういった経緯で職を辞し、あるいは失い、こんなファミレスで就職対策をすることになったのだろう。

 

そんなことに思いを馳せていると、日替わりランチが運ばれてきた。

ボリュームという点ではコストパフォーマンスが良いだろうが、まるで冷凍食品を並べたかのような皿の上である。

こういう食事には慣れている。

私にとってほとんどの場合の食事は、美味いとも不味いとも言わないただの栄養摂取でしかない。

食べていると、さっきまで剣呑な雰囲気で話をしていたご婦人たちが席を立った。

帰り際、ペーパーナプキンのスタンドにカバンを引っ掛けて盛大に倒し、わーきゃー騒いでから去っていった。

 

胃が痛い。

調子が悪い。

また胃腸風邪だろうか。

コーヒーをすすりながら、ぼんやり考える。

今日の仕事はクロージングだけである。

話はついているので難しいことは何もない。

頭の中にすでに入っているテンプレートを垂れ流すだけで良いので、胃が痛くて思考が回らなくても大丈夫だろう。

伝票を持って立ち上がる。

隣の男性はまだマーカー片手に求人票に目を落としていた。

いくら考えたってわからないこともあるし、最終的に武器は自分の身一つでしかないのだから、考えたって変わらないものもある。

あまり根を詰めすぎないように。

健闘を祈る。