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異呆人

毒にも薬にもならない呟き

恋愛においては楽しそうにすることが大事

先日、部長(Aさん)と他部署の先輩(Bさん)と飲みに行くことになった。

今いる会社はベンチャーみたいに小さな会社で、社風は比較的フラットである。

私も他の多くの人も、社長と常務以外は役職で呼ばず「さん付け」で呼ぶことが多い。

Aさんも部長だが常日頃から「Aさん」と呼んでいるし、ときどき飲みに行くこともある。

面倒見の良い人で、多くの人から慕われている。

Aさんはもともとは取引先の営業マンだったが、故あってAさんの技能が社内で欲しかったので、部長待遇でスカウトされた。

アラフォーで、うちの部長陣でも最も若い。

ただ技能は一級で人柄も良いが、もともと業界が違うので事情に詳しくない部分がある。

その辺りは若干だがAさんより社歴の長い私が頼りにされることも多く、仕事上の信頼関係の延長線上で単に仲が良い。

ちなみにAさんは家に帰れば2児の父親である。

 

Bさんは30代半ばの独身女性である。

Bさんの所属する部署は、私が「魔窟」と勝手に呼んでいる、うちの会社の闇である。

残業時間が異常に長く、退職率が異常に高い。

業務改善が必要なのだが、外からでは誰も何をどうしていいかわからない。

そして魔窟の中にいる人間はそれで仕方がないと思っている。

この部署には社歴が最古参クラスに長い独身女性三羽鴉がおり、彼女たちが中心になって業務を回している。

特にその三羽鴉のリーダーは他人の指図を受けないタイプで、なおかつ彼女がいないと会社の業務が停止するというとても困った状態にある。

うちの会社で唯一、女性しかいない部署というのも問題を難しくしているかもしれない。

今回登場するBさんは、その三羽鴉の3番目である。

 

Aさんから「Bさんと3人で飲みに行こう」と言われたときは正直驚いた。

私はBさんとほとんど話をしたことがない。

魔窟はうちの部署からは、物理的にも精神的にも一番遠い。

魔窟の住人がやってくるのは、呪いの札を持ってくるようなとても嫌な話のときくらいである。

しかも内容が「Bさんの恋愛相談に乗る」といったものだった。

実に私に向いていない内容である。

Aさんが「それなら最近婚約した朱天が適任でしょう」と提案して、Bさんも「その話、聞いてみたい」となったそうである。

飲みに行くのは構わないが、とんだとばっちりだと思う。

AさんがなぜBさんの恋愛相談に乗ることになったのか知らないが、大方喫煙室あたりで「Bさん最近どう?」、「最近彼氏と別れちゃって」、「じゃあ飲みに行くか。話聞くよ」というようなやり取りが交わされたものと推測される。

Aさんはそうやって軽く「とりあえず飲みに行くか」と言う人である。

まあ、そんなところが良いところでもあるのだが。

 

その日の飲み会は、魔窟の残業が終わってからの遅い時間からだった。

最近の私は守備的シフトのため超絶に仕事が暇で、その日も定時に終わったので近くのサイゼリアでほうれん草ソテーとドリンクバーで時間を潰してから合流した。

ちなみにAさんも残業の多い忙しい人である。

合流して近くの馴染みの居酒屋に入ると、私とBさんは「初めまして〜」な合コンのノリである。

私はBさんのことを顔と名前しか知らなかったが、よく見ると綺麗な人である。

年相応に見えるし特別美人というわけでもないが、下世話な言い方をすれば全然アリだと思える。

Bさんも私のことは人伝に聞く程度らしく、「変わった人だと聞いてます」と言っていた。

この「変わった人」というのは私にとっては通常の評価なので、特段驚くところではない。

私は他人からまともに形容されることがほとんどない。

 

一通り他愛ない話をし、私の婚約に至る話もした。

私のように予告ホームラン並みに、プロポーズすることやその時期を相手に宣言する人はあまりいないだろうから、何の参考にもならなかったとは思う。

「変わった人」と言われるような人の話を聞いても仕方ない。

そして、それから本題のBさんの恋バナに移った。

すごくざっくり言うと、過去に不倫して略奪してその相手と別れたことがあるらしい。

その彼氏が離婚した後、同棲まではしたらしいが、結婚は何年ものらりくらりとかわされるのでBさんの方から別れたそうである。

さすがに魔窟の住人だけあって、とんだ闇が出てきたものだ。

私からアドバイスすることなど何一つない気がする。

 

Bさん自身は悪い人ではないと思う。

女性に多いタイプだが、状況に流されやすいだけである。

Bさんの倫理観の問題はあろうが、略奪愛の話も相手の男がろくでなしなのだと思われる。

Bさんは年齢に対する焦りはない割に、自分の微妙な年齢に引け目を感じている節が見受けられた。

さほど本気で結婚したいと思っていないように見えるあたりが、余計に縁遠くさせてしまっているのかもしれない。

なんだかそんな諸々が混ざり合って、せっかく綺麗なのにBさんからは負のオーラが滲み出ていた。

 

まず楽しそうに見えないのだ。

飲みの席だし笑ってはいるのだが、自分に対する自信のなさのようなものが、影になって笑顔に現れている。

それは悪い男にとってはつけ入る隙になるし、良い人だがちょっと奥手な男にとっては踏み込めない壁になる。

Bさんは「歳上で引っ張って行ってくれる人が良い」と、一般女性の好みの模範的な回答をしてくれていたが、さすがにBさんの年齢で「引っ張って行ってくれる良い男」を探すのは至難だと思われる。

リードするように見せかけて振り回すような男なら見つかるかもしれないが。

 

だからBさんには「良い人だがちょっと奥手な男」が自信を持ってアプローチできるように、楽しそうにしていてほしいなと思った。

もちろん本当に一緒にいて楽しいことが一番かもしれないが、一緒にいることが楽しい相手なんて稀である。

私だって、彼女と一緒にいても楽しくはない。

スマホゲームをしてる方が楽しい。

私が彼女と一緒にいることで得られるものは、楽しいとは違った価値観である。

安らぎだったり、癒しだったりするようなものである。

友人として遊ぶ、あるいはドキドキした恋愛をするならともかく、長く一緒にいる、結婚するということはそういうことだと思う。

そして特別楽しいものではないからこそ、せめて楽しそうにすることが大事だと思う。

それは相手のためでもあるし、自分のためでもある。

そうやって振舞っていくらか付き合っていても、親愛の情すら湧かないなら別れたらいい。

でもまず入口の部分で、楽しそうでないことは損をすると思う。

 

楽しそうな雰囲気というのは、健全な自信と相手への敬意から生まれると思う。

そしてそれらは、恋愛に限らず生きていく上でも大切なものでもある。

どうもあの魔窟に漂う雰囲気そのものが、Bさんが漂わせている負のオーラに近い。

部署全体がそんな瘴気で包まれているから、体調不良者や退職者が絶えないのかもしれない。

もはや末期的な気もするが、なんとかせねばなるまい。

ちなみに社長やAさんからは、「もう少し営業の人員に余裕ができたら朱天を〇〇部(魔窟)の改革に向かわせたい」と言われている。

魔窟に鬼退治なんて、ゲームの中でしかやりたくない。