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異呆人

毒にも薬にもならない呟き

悪筆は天才か?

会社で「誰か慶事の祝儀袋の表書きをしてくれ」と社長が言っていた。

取引先に持って行くものだから、確かにあまり粗末な字ではみっともない。

社長も字にはあまり自信がないということだろう。

そのとき誰かが「朱天に書いてもらえばいいんじゃないですか?」と言っているのが聞こえた。

社長が「なんだ、お前は字が上手いのか?」と聞いてくる。

「いやいやいや」と冗談を真に受けそうな社長を制すると、周囲が爆笑した。

また、誰かが「頭が良い人は字が汚いって言うし」とフォローしているのが聞こえた。

 

「頭が良い人は字が汚い」という通説は、ときどき聞く。

先日もネットのコラムで「悪筆の天才、美文字の秀才」というようなものを見かけた。

内容は科学的根拠の乏しい通説に過ぎないので引っ張らないが、「字が綺麗な人は型通りに物事を遂行することが得意な優等生で、悪筆は型破りな天才型が多い」とか、「頭の良い人は考えているスピードに手がついていかない」とか、それらしいことが書かれていた。

私の周りには美文字で頭が良い人もいれば、悪筆で頭が良い人もいる。

特に有意差は感じられない。

ちなみに私は天才ではないが、天才的な悪筆である。

 

小学生の頃からそうだった。

万能型の優等生だったが、「字と水泳なら朱天に勝てる」と言われていた。

とにかく字が汚かった。

実は小学校に上がる前後に習字教室に通わされていたこともあったのだが、わずか2,3回でやめていた。

硬筆でひらがなの「な行」を書いているくらいで飽きてしまった。

あの、見本の字をなぞる退屈な行為に耐えられなかった。

学校の習字で取り組んだ毛筆は楽しかったが、安物の筆の毛が抜けるのがどうにも嫌だった。

今でも筆ペンで書いた方が字は綺麗である。

普段着の字はとにかく汚い。

 

高校の頃には、ノートを貸した友人から「読めないからいい」と返されたことがあった。

「歴史に出てくる象形文字みたいだ」と言われた。

もちろん、私は読めている。

1つ1つ解説してあげると、「あぁ、なるほど」と言ってくれたが、他人に解説が必要な時点で、情報伝達という文字の主要機能の1つを失っている。

大学のときには、字が汚いだけでテストで減点されたことがあった。

専門用語の意味を答えるテストで、99点となっていたが全ての回答に丸印が付いている。

教員の所に「全部正解してるんですけど。。」と持って行くと、「字が汚いからマイナス1点」と言われた。

予想外の措置である。

 

会社勤めになってからは、「字が汚いです」と公言するようにしている。

転職の度にそう言っており、その度「また、そんなこと言って」と軽く見る人がいるが、実際に私が筆記したものを見るにあたって、絶句するか爆笑している様子を見かける。

「だから言ってるのに」と思う。

幸い、文字を書く機会は年々減っている。

特に仕事ではPCで文書を作成することがほとんどである。

郵送物の宛名書きをすることはたまにあるが、直接手渡すわけではないので、誰が書いたかわからないからいいだろうと思っている。

できれば手で文字は書きたくない。

それは他ならぬ、その文字を読む人のためである。

 

字が汚い理由はわからない。

速く書くと周囲が読めないくらい汚くなるが、綺麗に書いているつもりでも、「笑おうとして上手く笑えていない人」みたいな滑稽なものが出来上がる。

全体的にバランスが悪い。

大きさとか、間隔とか、傾きとか、すべてが醜い。

私がクレジットカードのレシートにサインをするのを彼女が見たとき、「あれ、名前書いたんだよね」と聞いてきたことがあった。

そんなレベルである。

 

数年前、そもそもペンの持ち方がおかしいことを指摘された。

実は箸の持ち方もおかしかったのだが、そちらは社会人になってから、社外の人と飯を食う機会が増えたときに努力して直した。

箸の持ち方を直すときは、最初はカップ麺を食うのに苦労したくらいである。

ペンの持ち方も、それを聞いてから修正するよう努力したが、そもそも筆記する機会が少ないので直らない。

その前に、正しい持ち方で書いても字は汚かった。

「俺にどうしろと」というのが本音である。

 

字が汚いことに開き直っているつもりはない。

綺麗な字を書く人に憧れる。

できれば自分も、他人が惚れ惚れするような文字を書きたいと思う。

数年前にボールペン字の練習帳を買ったことがあった。

だがやはり小学生の頃と同じで、見本の上をなぞるという行為が拷問のように思われる。

それになぞっているときはいいが、いざ文字を書くときに見本がなくて結局上手く書けない。

結局1/3くらい取り組んでやめた。

ユーキャンのボールペン字講座の資料を取り寄せたこともあるが、意外と値段が高くて尻込みした。

それくらい、本気でなんとかしたいと思っている。

 

アウトプットに手が追いつかないというのは若干あると思う。

というか、普通は皆そうではないだろうか。

考えていることのスピードと量の方が圧倒的に多いだろう。

私などは、喋る方だって追いついていない。

だからくどくどと早口でまくしたてるか、話す内容を端折ってしまう。

その結果、突拍子もないことを言うとか、何を考えているかわからないと言われてしまう。

私自身は正常に機能しているので、他人との意思疎通に障害があることはあまり気にしていない。

間違ったことをしているつもりはないので、後で、いつかどこかの時点で、私の発言ややっていることの真意が伝わればそれでいい、くらいのスタンスでいる。

 

本当に、どうやったら綺麗な文字が書けるのだろう。

他人がハッとするような美文字を書いてみたい。

そしたら彼女にラブレターを書いてもいい。

彼女はときどき気持ちを手紙にしたためてくれており、私も同じように返したいと思っている。

ただ私が書くと、感動的な文面も字の汚さで相殺されて、笑いを呼び起こしてしまう。

いっそ、手書き文字は笑いを取るためのツールとして諦めた方がいいかもしれない。