異呆人

毒にも薬にもならない呟き

視線の魔力

幼い頃は妄想が趣味だった。

自分が戦隊モノのヒーローになっているところとか、もしプロ野球選手になったらとか、そんなあり得ないことばかり考えていた。

妄想の世界は自由である。

何を考えていても、誰にも咎められない。

その上、何でも可能になる。

実現しないという1点以外は最高の娯楽である。

だからよくボーッとしていた。

しかしそうやって妄想の世界に飛んでいても、現実世界の私にはきちんと身体がある。

妄想している間、頭の中はフル回転していても、身体は停止している。

そんなとき、現実世界の私はある1点を凝視した状態で止まっていたりする。

気まずいのは、その視線の先に人がいるときである。

特にそれが異性であるときは最悪である

 

他意はもちろんない。

だが他意がないことなど証明しようもない。

何をしてたのかと言われれば、妄想してたとしか言いようがない。

「そんなこと言って、◯◯ちゃんのこと見てたでしょ」と言われれば、否定のしようがない。

見てたのではなく、たまたま視線の先に彼女がいただけだ、などと言っても苦しい言い訳にしか聞こえない。

むしろ「◯◯ちゃんを見て妄想していた」と曲解されれば、ただの変態でしかない。

そして噂になったりする。

視線というのは厄介である。

 

小学生のときは、相手の目を見て話を聞くように学校で厳しく教えられた。

担任の先生が、目を見て話を聞くことと、積極的に発言することの重要性をよく説いた。

だから当たり前のようにそうしていた。

ただ世の中には目を合わせることを嫌がる人もいる。

私も高校のときくらいから、人と話すときに目を合わせなくなった。

きっかけは2つある。

 

1つは、ある人から「朱天さんに目を見られると、考えを読まれているようで怖い」と言われたことである。

私は人の思考を読む癖がある。

相手が何を考えているか、自分の投げた言葉をどう受け止めているか、相手の発言の真意はどこにあるか、そんなことを常に考えている。

そしてその推察が当たることが多い。

そうすると相手は常に先回りされているような錯覚に陥るらしい。

だから目を見られると、心の中を覗かれているようだと感じるそうだ。

もちろん私はエスパーではない。

ただ観察力が人より少し秀でているだけである。

私にそういう癖が付いたのは自己防衛のためだが、相手に気持ち良く過ごしてもらうために思考を先回りすることもある。

だから良かれと思ってそうするし、また確かに相手の目を見た方が思考は読みやすいのだが、それを不快と思う人がいることを知って反省した。

 

もう1つは、目を合わせるという行為が、意図しないところで恋愛沙汰の呼水になると知ったことだ。

それを武器として恋愛を楽しみたいならともかく、私のようなモノグサにとっては面倒な恋愛沙汰は避けたいものである。

目を見て話を聞くことが推奨されるのは、そうすることで「あなたの話を聞いています」という真剣な姿勢がアピールされるからである。

これはともすれば「あなたに興味があります」というメッセージに読み替えられる危険性を孕む。

世界は主観、解釈により成立している。

情報の受け取り方は人により異なる。

逆に、いつも目を合わせてくれない相手ならどうだろう。

「この人は自分に興味がないんだな」と思うのではなかろうか。

 

相手の目を見ているときに、その目が光を帯びているようなら危険のサインである。

恋する瞳は、冗談でもなんでもなく、キラキラ輝いている。

それはスーパースターを取った無敵モードのマリオと同じである。

障害や人の忠告をはね除けるバーサークモードである。

自分も一緒にバーサークモードになって2人の世界に突入したいならともかく、こちらにその気がないときのそれは、タチの悪い地雷である。

踏んだら最期、ドロ沼になることもある。

 

そんなこんなで、私は目を見て話をしたり、聞いたりすることをやめた。

視線には魔力が宿っている。

それは不用意に使うものではない。

また、目は口ほどにものを言う。

心中を覗き、覗かれたくないなら、目を合わせない方がいい。

逆にやましいことがないなら、目を合わせる方が潔白をアピールすることができる。

話は逸れるが、アニメ「コードギアス」を見たときに、目を合わせた相手にギアスをかけるという設定に、えらく興奮したものである。

あれはギアスが宿るのが目だからこそ、魅力的な物語になる。

メデューサの神話もそうだが、視線に魔力が宿るというのは、古来より人が感じてきたことなのだろう。

 

ちなみに私は「死んだ魚の目」と言われることも多い。

覇気とかやる気のなさそうな目をしているからだろう。

確かにみなぎるエネルギーみたいなものはない。

だがそれは死んだフリで、いつか本気を出すときが来る、と思っている。

そのときはルルーシュよろしく、世界を変える戦いに臨むつもりだ。

視線の魔力を隠すために、今からフルフェイスを準備した方がいいかもしれない。