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異呆人

毒にも薬にもならない呟き

新人の新人による新人のための新人教育

今週のお題「印象に残っている新人」

 

いくつかの会社を渡り歩いてきた。

と言えば聞こえは良いが、要は何度も転職しているだけである。

今の会社もそうだが、私が今まで中途で入った会社は新卒を採らない。

人を育てる余裕がないからだ。

そんな風に即戦力しか採用できない会社は5万とある。

もちろん即戦力として入社した中途の社員とて、新人であることには変わりない。

ただ、やはり手取り足取り教えたりはしないので、新人っぽさはない。

ちなみに私はこれまで毎回、「最年少」の看板付きで中途入社してきたが、「フレッシュさがない」とか「死んだ魚の眼をしている」とか言われてきた。

 

私がこれまでの短い会社員人生で接した新卒新人は、たった一人である。

私自身が新卒で入社した専門商社だった。

大阪に本社があるので、大抵の社員は大阪出身。

そこから地方の営業所に配属される。

社風は良くも悪くも体育会系で、ブラック寄りのグレーな会社。

同期の半分くらいは脳味噌まで筋肉で出来てそうだった。

 

それは私が2年目のことだった。

凄まじい忙しさで、加えて覚えることも多く、毎日ハングアップしている状態から、ようやく何とか仕事がこなせるようになった時期である。

営業所に新人が配属されることになったのだ。

それまでは所長と私とバブル世代の使えないオヤジしかいなかった。

誰かの代わりではなく増員である。

営業所は独立採算だったので、所長は人件費がかさむと嘆いたが、私は素直に会社の配慮に感謝した。

新人が実際に来るまでは。

 

新人A君はなかなかの逸材だった。

ラグビーをしていたそうで、抜群の体格だった。

そして脳味噌まで筋肉だった。

 

その営業所では、事務員さんが毎朝全員にコーヒーを淹れてくれていた。

事務員:「Aさん、コーヒーどうされますか?(ミルクとか砂糖とか)」

A君:「え?いらないっす」

事務員:「遠慮しなくていいよ。皆に淹れてるから」

A君:「いや、コーヒー飲まないんで」

事務員:「そうなんだ。じゃあ普段、何を飲むの?」

A君:「コーラっす!」

初日のそのやり取りを見て、こいつはヤバいかもしれないと思った。

 

その日、外回りから帰ってきたら、営業所の敷地に見慣れないBMWが停まっていた。

話を聞くと、A君が実家から陸送を頼んだらしい。

昼間は仕事で受け取れないから、営業所に運べばいいと思ったようだ。

それを聞かされていなかった所長は、BMWが届いたとき絶句したという。

そりゃそうだ。

新人が無断で営業所に自家用車を陸送、しかもBMW

鮮烈なデビューだった。

 

その後もA君は順調にやらかした。

私から引き継いだ顧客で発注を放置し、早々に出禁になった。

隣合って立地する顧客に配達する荷物を、それぞれ逆におろしたこともある。

しかも納品物が違うとクレームを受けたA君は、逆におろしたことに気付かず、商品を再発注していた。

ダブった分は不良在庫になった。

趣味のラグビーでアキレス腱を断裂し、車で外回りをする仕事だったので、しばらく営業できないこともあった。

 

A君への指導は私の仕事だった。

だが私も2年目である。

おまけに自分自身が忙しい。

しかも彼の脳味噌は筋肉である。

根気強く付き合ったつもりだが、私が至らなかった部分も多々あったろう。

結局彼はやらかし続け、始終所長に怒られていた。

いつしか私の仕事は彼の指導ではなく、「あんなに怒らなくていいじゃないですか」という、彼の愚痴を聞くことになっていた。

 

結局、彼の成長を見届けず、私は先に会社を去ることにした。

あとで聞いた話では、A君もその翌年くらいに退社し、母校の大学で事務をしているという。

まぁ、どこぞの社長の息子だそうなので、今は家業でも手伝っているかもしれない。

それはそれで心配だが。

 

私自身が欠員補充で赴任し、OJTの名の下に現場に放り出されたので、簡単なビジネスマナーと一通りの商品研修以外は、あまり新人研修らしき研修は受けていない。

確か自分で商品カタログを見ながら勉強した記憶がある。

だから私に研修のノウハウがなかったことも問題だったと思う。

それからA君には知識や仕事のやり方だけでなく、もう少し本質的なことを教えてあげたかったと思う。

その仕事にどんな意味があるのか、自分が仕事から得られるもの、仕事に対する中長期的なビジョン。

あの頃の社会人2年目の私には無理だったが、今なら少しは教えられるかもしれない。

 

ちなみに私はA君からスノボを教わった。

教わったといっても、彼は先に滑って下で待っているだけだった。

ある意味、OJTである。

滑れるようにはならなかったが、スノボが痛いものだというのはよくわかった。