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異呆人

毒にも薬にもならない呟き

本当の敵はどこにいる

社会

アメリカの次期大統領選の話題が世間を騒がせている。

海の向こうの大統領選挙が私たちに何の関係があるのか?、というような時代ではない。

モノやサービスは、海を越えて様々な形で私たちの生活に根付いている。

アメリカが日本車の輸入をやめれば、日本の自動車メーカーは有期雇用の従業員を雇い止めにするかもしれない。

石油産出国が油を売り渋れば、オイルショックが起こる。

もちろんこれらは極端な例えであるが、アメリカ大統領が誰になるかは、直接的にも間接的にも私たちの生活に関わる。

ただの外国ではなく、いまだ世界一の大国だから尚更である。

 

この話題の中心は、強烈な発言を繰り返すトランプさんであることは言わずもがなである。

この人の発言を初めて知ったとき、バカな小学生かと思った。

選挙では一勝もできないだろうと思った。

しかし支持率がまったく落ちず、実際にこれまでの共和党選挙の過半を勝ってしまった今に至っては、アメリカ社会の病巣の深さを感じずにいられない。

 

トランプさんの訴える政策は、専門知識がなくても、良識があれば肯定できないものがほとんどである。

だから選挙には勝てないだろうという有識者は、そこそこいたと思う。

でも彼は実際に多くのアメリカ国民の支持を受けている。

それはアメリカ国民に良識がないということではない。

政策がほとんど争点になっていないということだろう。

だから今のところ、彼の政策への論理的な攻撃は、ほとんど効果を上げていない。

 

彼を支持するアメリカ人にとっては、はっきり言ってトランプさんでなくてもいいのだ。

現状を破壊してくれる誰かであればいい。

自分たちの苦しい現状を変えてほしい。

主に経済的な面で。

でも政治家は彼らに寄付をする金持ちの言いなりだし、何よりその金持ちの存在が自分たちの苦境の遠因なのだ。

だから既存の政治から離れた人を選ばなければ何も変わらない。

…とまで皆が考えるわけではないだろうが、そんな感じだと思う。

この雑な理屈は民主党候補のサンダースさんを支持する人にも当てはまる。

ちなみに、トランプさんは超大金持ちであるが。

 

人は苦しいとき、その原因を探す。

当たり前だが、苦境を抜け出すために。

ただそれが努力で解決可能なことであればいいが、残念ながらそうでないことの方が多い。

何とかなることの方が多いと思う人がいるなら、それはその人が恵まれているからである。

解決不可能でどうしようもないとき、人は絶望したり憤ったりする。

そしてやり場のない気持ちをぶつける敵を探す。

誰かの、何かのせいにする。

具体的な誰かだったり、国とか社会とか大人とかだったり。

それが精神のバランスを取る一番簡単な方法なのだ。

少し意味合いが違うが、共通の敵を持つ人が仲良くなることと、根っこの理屈は同じである。

 

今回のトランプ支持者にとって、敵は自分たちの苦境の原因をつくる何かである。

トランプさんは明快だ。

不法移民やイスラム教徒や、日本や中国などの輸出国を持ち出す。

そしてそれらに無力だと、既存の政治も敵に仕立てる。

あとはひたすら煽る。

敵を倒す武器や作戦が何なのかなど、もはや問題にされなくなる。

 

自分の中で敵を作ってしまうことは、別にどこでも誰でもよくあることだ。

勝手に相手を敵に仕立て、そいつさえいなければと殺してしまうような事件は、残念ながらちまたに溢れている。

問題はそういった心理状況になってしまう環境に置かれている人が、アメリカでは相当いるということである。

これはもはや社会の病だと思う。

 

翻って日本で考えると、ヘイトスピーチや右翼、左翼など敵を作って攻撃したがる人は、やはりたくさんいる。

純粋に思想的に傾倒している人もいるが、何らか苦境や苦悩を抱える人も多いのではなかろうか。

そう思うと、一生懸命街頭で声を張る彼らも、甘皮ほどは憐れに思える。

 

ちなみにこの敵を作る行為は、苦境そのものを抜け出すきっかけにはなり得ない。

現実逃避、あるいはストレス発散程度のものである。

仮想敵を作って人心を煽り、実効性は二の次にして権力と名声を得んとするトランプさんの手法は詐欺紛いである。

寝言は寝てるときだけにしてほしい。