異呆人

毒にも薬にもならない呟き

異文化コミュニケーション

初めてJR草津線に乗った。

群馬の温泉地の草津ではなく、滋賀の草津である。

高速道路を使えば、名神新名神の接続する草津JCTはよく通るが、駅で降りることは初めてだった。

電車の路線もいくつか乗り入れる交通の要衝である。

 

まぁ用件は仕事で、たぶん電車で今回の目的地に行くことは二度とないだろう。

列車の本数も少なく、早く着くのが嫌だったので、予定の列車まで待合室で時間を潰し、それから列車に乗って発車まで待った。

 

すると、大学生くらいに見える白人の女性が乗ってきて話しかけてきた。

「ツギ?ツギ?」と聞いてくるのだが、何のことだかわからない。

どこに行きたいのか日本語で尋ねると、彼女はスマホを取り出して入力し始めた。

そして見せられたスマホには「TSUGE」と入力されていた。

 

私も初めて乗ったので詳しくはないが、時刻表を見たときに、草津線には貴生川行きと柘植行きがあることを認識していた。

私は日本語で、この列車は貴生川行きで途中までしか行かないこと、この後の列車に乗ればいいことを伝えた。

彼女が私のたどたどしい日本語をどの程度理解したのか不明だが、彼女は納得した表情で列車を降り、行き先表示のプレートを見上げて去っていった。

 

「TSUGE」とローマ字表記したので、英語圏の人だと思われる。

私の拙い英語で対応しても良かったが、私が英語で何と言ったらいいか考えるより、彼女が私の日本語を理解する方が早いと判断した。

事実、その通りだったようだ。

彼女の日本語スピーキングは今ひとつだったが、リスニングはそれなりだったのだろう。

私も英語を話すことはまったくと言っていいほどできないが、聞いて理解することはある程度大丈夫だ。

 

そのとき感じたことが2つある。

まずは英語を話せるようになりたい。

最近なら中国語でもいいかもしれない。

海外旅行に行きたいとはさほど思わないし、語学を活かした仕事をすることもこの歳からだとあまり良い選択だと思わないが、せめて日本に観光に来る外国人をスマートに案内できるようになりたい。

私はなぜか外国人によく道を聞かれる。

 

次に、彼女のように異国を一人で旅するくらいの度胸がほしい。

私は海外旅行に行ったことがない。

海外といえば治安と言葉の心配をし、その心配を抱えて海外旅行をするくらいなら、国内の温泉でゆっくり保養でもしたいと思う類の人間である。

そんな度胸があったなら、もっと面白い人生を送れていただろうか。

 

そんなことを考えながら、長閑な車窓を見せる列車に揺られた。

たぶん今後一生、語学を真剣に勉強するなどし、今日の思いを実現させることはない。

もっと身近で切実な何かをこなすうちに、どんどんそんな理想からは遠ざかっていく。

そういう理想を追いかけて、リスクをとってすり減るより、何でもないような普通の生活を選ぶことにしたのだ。

ただ手に入らないものだからこそ、妄想くらいはときどきしてみたくなる。